ラストハンター

今日のおすすめは、飯田辰彦著『ラストハンター
~片桐邦雄の狩猟人生とその「時代」』(鉱脈社)です。
副題にもあるとおり、猟師である片桐さんの狩猟人生と、
豊かだった日本の自然が、戦後いかに打撃を受けてきたかが
長く片桐さんを取材してきた著者の筆で書かれています。

片桐さんはイノシシとシカを罠猟で生け捕りにした後
解体したものを、自身が営む割烹店で出しています。
独自の方法によって一瞬で失血死させ、処理された天然の肉は、
まったく臭みがなく、
大変美味しい料理となって供されます。
また、一方でアユなどの漁師でもあり、
さらには養蜂家でもあります。

片桐さんをこれらいくつもの分野での
天才的なハンターに育てた豊かな自然は、
戦後大きな不幸を負います。
川はダムによって、山は針葉樹の植林とその後の放置によって
徹底的に破壊されました。

ダムでせき止められた川は魚の住む場所を奪いました。
広葉樹が伐採され、食べもののなくなったイノシシやシカは
山を下らなければならなくなり、
「いくら殺してもいい」害獣にされます。
害獣は人間のほうなのに。

片桐さんが肉の処理に最善を尽くすのは
「神から授かった大切な命をいただくわけですから、
こちらも中途半端な気持ちで対処することはできない。
全身全霊で野生動物と向き合い、しっかり彼らの魂を
神のもとへと戻してあげたい」からと言います。
私は、このことばを読んで、
今までパックになったお肉を調理したものを
こんな気持ちでいただいたことなど一度もなかったと
愕然としました。

著者の言うように、
自然は復元力を取り戻せないレベルにまで
攪乱されてしまった可能性があるのかもしれません。
政治や経済と違い、一日たりとも先送りできない難題であると
著者の叫びに近いことばが最後に書かれています。

この本を知ったのは、ジュンク堂という書店で
若い女性の書店員さんが催してくれた
著者と片桐さんのトークショーがきっかけでした。
実際に片桐さんのお声に接してもらいたいという
書店員さんの熱意のおかげで
この本に出会い、無知に気付く貴重な機会を与えていただいたことに
心から感謝しています。

なるべく多くの人に読んでいただきたい1冊です。

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