風にのってきたメアリー・ポピンズ

今日のおすすめは、P.L.トラヴァース作/林容吉訳
『風にのってきたメアリー・ポピンズ』(岩波少年文庫)です。
東風にのってやってきたメアリー・ポピンズが
ジェイン、マイケルの姉弟とその下の双子の赤ちゃんの世話係となり、
西風とともに去っていくまでのお話です。

家まで風で吹きつけられるみたいにして到着したメアリー・ポピンズ。
からっぽのかばんからは、
エプロンからひじかけいすまで
次々といろいろなものが出てきます。
ジェインとマイケルだけでなく、
多くの子どもたちは、早くもここで心をつかまれたことと思います。
私ももちろんそうでした。

はじめのほうに、ジェインとマイケルが
メアリー・ポピンズのおじさんの家を一緒に訪ねる話があります。
おじさんは、笑うと“笑いガス”が体中に充満して
浮き上がってしまう癖がありました。
ジェインとマイケルは、
浮き上がっているおじさんを見て
そのようすがあまりにおかしくて笑いが止まらなくなり、
自分たちも浮き上がってしまいます。
しかたなく、天井近くでお茶をすることになりました。
おじさんはなんとか悲しいことを考えて、
地上に降りようとするのですが、
どんな悲しいことも、考えているうちに可笑しくなってしまい、
うまくいきません。
メアリー・ポピンズのシリーズはこの後もすべて読みましたが、
私はこの話が一番記憶に残っています。
子どものころからこういう話が好きだったようです。

今回読み返して印象に残ったのは、双子の赤ちゃんのところでした。
赤ちゃんは、ムクドリや風や木とも話ができたのに、
初めての誕生日に、できなくなります。
ムクドリは言います。
「まあ、そうさ--わかってたのさ。
 いつも、いってきかせてやってたんだから。
 でも、ほんとにはしなかったけど」
赤ちゃんは、そんな日がくるはずないと言っていたのです。
寂しそうに飛んで行くムクドリに作者の心が映っているようで、
小さいころとは違う感慨を持ちました。

メアリー・ポピンズの誕生会を夜の動物園でする話も
不思議な磁石で、世界中をあっという間に回る話も、
どれもこれも、今読むと違う印象がありました。
本との出会いは何度でも何種類でもあるのだと
また気づきました。
挿し絵も楽しい1冊です。

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