民族衣装を着なかったアイヌ

今日のおすすめは、滝口夕美『民族衣装を着なかったアイヌ』(SURE)です。
著者はアイヌの母と和人の父の間に生まれ、
アイヌコタンでみやげ物店を営む両親のもとで育ちました。

アイヌは日本による「同化政策」のせいで
独自の文化を奪われてきました。
その中で観光で身を立てるアイヌは、民族性を切り売りしているとの
侮蔑を込めた「観光アイヌ」と言われることがあるそうです。
正統なアイヌではないという思いとともに、
アイヌを売り物にしている状況で育った著者は、
アイヌであることの意味を見つけるべく、
母を初め、アイヌの女性達にインタビューを重ねます。

その中には樺太の少数民族ウイルタの女性、アイ子さんが出てきます。
アイ子さんは樺太が日本領であった当時に生まれ、戦後20年が経ってから
初めての土地である日本に「引き揚げ」ます。
ウイルタの人は日本の戦争に行かされ、国境で多くが亡くなりましたが
その骨が届けられた人はいなかったと言います。
アイ子さんの兄の源太郎さんも戦争に行きましたが恩給の支給はなく、
アイ子さんに支えられながらウイルタ民族として
日本政府に訴え続けて亡くなったそうです。

アイ子さんの学校は、先住民族政策のために日本が設けた土人教育所でした。
そこにはすでに始まっていた秘境熱により観光客が訪れ、
アイ子さんに土人はどこにいるか尋ねます。
制服のアイ子さんがそう見えなかったから聞いたことではありますが
子どもを傷つけるに十分であったその質問に、
アイ子さんは「あっちだよ」と山を指します。
そして、後でそのことを反省し、先生に告白します。

不当な扱いを受けた人がすべて力強く反抗できるはずもなく、
最後のウイルタとして、堂々と生きたアイ子さんでさえ、
さまざまな感情を持っていました。

そうした女性達の声を、著者は丁寧に記録することによって、
その言葉はすべて主体的な気持ちであることに気づきます。
そして、観光地で育った自分自信の気持ちに至ります。
ここはぜひ本書を読んでいただきたいと思います。

著者の思いとは離れますが、
やはり私は、私たちの祖先のしたことを
もう一度見つめ直さなければならないと思います。
文化も言葉も多くのものを他民族から奪うことなど
決してしてはいけないことだと。

長く苦労をしてきた女性が淡々と語る話は
作り話を超えるすごみがあり、
何度も読み返す箇所がいくつもありました。
ぜひご一読いただきたい1冊です。
ご購入は編集グループSUREに直接お申し込みいただくことになると思います。
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