それでも、日本人は「戦争」を選んだ
今日のおすすめは、加藤陽子著『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』(朝日出版社)です。
日本近現代史を専門とする著者が高校生にした講義をもとに
日清・日露戦争から太平洋戦争まで、とてもわかりやすく書かれています。
著者は、歴史家アーネスト・メイのことばを参照しながら
「重要な決定を下す際に、結果的に正しい決定を下せる可能性が高い人というのは、
広範囲の過去の出来事が、真実に近い解釈に関連づけられて、より多く頭に入っている人」
と、政策形成者のあるべき姿について述べます。
研究者としての著者も、偏ることなく当事者それぞれの立場に立って考え、
現時点でわかっている事実を教えてくれています。
この本によって、日清戦争は、日本と中国が競い合う物語として見ることができること、
そうした状況の中で福沢諭吉が危機感を持って「脱亜論」を書かなければならなかった理由が
よくわかりました。
日清・日露戦争を通して大国に大使館の置ける国となった日本でも、
それほど積極的でなかった日露戦争を戦わなければならなかった理由は、
韓国問題が重要なのだとロシアにも他の列強にも理解させることばが
足りなかったことにあると知りました。
そして、満州事変、日中戦争、太平洋戦争と常に陸軍の暴走があり、
それを止めようとする努力もまた軍の暴挙によってかき消され
国際社会で孤立していく様子は愚かしく、正視に堪えませんが、
このことを絶対に忘れてはならないと思わせます。
印象的だったのは、蒋介石が駐米大使に抜擢した胡適という人物について
著者が語っている部分でした。
胡適は中国と日本の戦いにアメリカやソ連を巻き込むために、
日本との戦争を苦戦しても負け続けることを主張します。
そんな覚悟のある為政者が日本にいるだろうかと著者は言います。
そして、「日本のように軍の課長級の若手の人が考えた作戦計画が
これも若手の各省庁の課長級の人々との会議で形式が整えられ、
ひょいと閣議にかけられて、そこではあまり実質的な議論もなく、
御前会議でも形式的な問答で終わる」日本と比較して、
中国には「政治」があると言います。
胡適の主張は、結果としてその通りになりました。
太平洋戦争での捕虜の死亡率でわかった日本軍の捕虜の扱いのひどさ、
ニューギニア戦線では戦死者ではなく、餓死者がほとんどであったこと、
国民の食糧を最も軽視した国の一つであったこと、
あらためて人を人とも思わぬ暴挙であると思わずにいられませんが、
著者が最後に書いているように、
戦争責任を問いたいと思う姿勢と、自分が当時生きていたとしたら
と想像してみる姿勢をともに持ち続けることが大事なのだと思いました。
歴史に学ぶ必要を痛感する1冊です。