ジャン・クリストフ

今日のおすすめはロマン・ローラン作・豊島与志雄訳『ジャン・クリストフ』(岩波文庫)です。
主人公は音楽家(作曲家)ジャン・クリストフ。その生涯を描いた長編小説です。

ドイツ人ジャン・クリストフは、幼い頃から音楽の才能をあらわしますが、
それを当てにして父が放蕩を続けたため
14歳から音楽家として一家を支えることになります。

クリストフは、祖国の音楽界の偽善と闘い、
ある事件がきっかけとなって移り住んだフランスでも
すぐに評価を受けることはなく、
不遇の時代が続きます。

この間にいくつもの恋愛や友との出会いがありますが、
中でも魅力ある人物の一人が、母の兄である伯父のゴットフリートです。
貧しい行商人のゴットフリートを、クリストフ家の人たちは
馬鹿にしたりからかったりしますが、少しも怒らずに笑っていました。
そして、幼くして音楽の才能が認められたクリストフが得意になっていたとき、
「歌をこしらえるには、あのとおりでなけりゃいけない」と言って
風が木の枝をそよがす音、鳥や蛙や虫の鳴く音を聞かせます。
このとき、クリストフは叔父さんを笑ったことを心から詫びます。

クリストフの音楽が認められるようになるには時間がかかりますが、
幾多の苦難に遭いながら、
そのたびごとに音楽が天才の内から流れ出し、復活を遂げるのでした。

ロマン・ロランはベートーヴェンを心から愛し、
クリストフにも少なからずその姿が投影しているようです。
そのべートーヴェンを描いた『ベートーヴェンの生涯』(岩波文庫)の中で
ロマン・ロランはベートーヴェンについて次のように書いています。
--彼は自分の生活にただ二つの目的を決定している。
  それは「聖なる芸術への」献身と、他人を幸福にするための行いとである

饒舌なフランス人の、しかも音楽史家の著者の手で書かれた本は
たくさんの音楽家、詩人の名が出てきて
読むのに簡単な本ではありませんが、
それでも、もし機会があればぜひ最初の1冊だけでも開いてみてください。
不屈の精神で苦難と闘い、最後まで誠実さを貫いたクリストフの生涯は
必ず生きる勇気をもたらすものと思います。

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