八十日間世界一周

今日のおすすめは、ジュール・ヴェルヌ『八十日間世界一周』(岩波文庫)です。
いろいろな方が愛読書に挙げていて、いつか読もうと思っていた本でしたが、
ともかく面白くて、文庫にして450ページはあっという間でした。

主人公は“謎めいたイギリス紳士”フィリアス・フォッグ氏。
なぜ謎めいているかと言えば、
「ただ、彼のやっていることが常に、寸分違わず同じであったため」。
人との交わりもごく限られ、
その理由は、交際は「遅れを生み出してしまうものである」からでした。
毎日まったく同じ時間に自宅を出て会員となっている「革新クラブ」へ出発し、
クラブ内の同じ部屋で昼食・夕食をとり、まったく同じ時間に帰宅。

この几帳面にして資産家でもあるフォッグ氏は、
ある日革新クラブでのおしゃべりから、
80日間で世界一周はできると断言したことから賭けに発展し、
その夜から世界一周の旅に出なければならなくなります。

旅の伴はその日に雇われたばかりの召使いのフランス青年パスパルトゥー。
生活は規則正しく、外泊も旅行もしない主人のもとで働きたく、
完全に条件が合致して希望したにもかかわらず、
青年はその家で一度も就寝することなく旅に出ることになったのでした。

もし80日間で世界一周をして戻ってくることができず、
この賭けに負けた場合、フォッグ氏は全財産を失うことになります。

時は1872年、もちろんほとんどの国で交通網には予期せぬ遅れがあり、
国の事情で争いにまきこまれと、困難が次々と降りかかってくるのですが、
あらゆる困難に、フォッグ氏はまったく動じません。
常に冷静沈着、財力を驚くほど思いきり使いながら難局を切り抜けていきます。

それに対して青年パスパルトゥーは、
主人によかれと思ってがんばるのですが、ことごとく裏目に出ます。
しかし、本人がごくまじめにやっているだけに、
こちらは笑いをこらえることができなくなります。

この二人に、予期せぬ同行者が現れ、息もつかせぬ展開が繰り広げられていきます。
さて、フォッグ氏は賭けに勝ったのかどうか。
それは読んでのお楽しみですが、
この本の面白さはもくじを見ただけでもおわかりいただけると思います。
たとえば、8「パスパルトゥー、おそらくはいささか度をこして喋りすぎる」
14「フィリアス・フォッグ、ガンジス川の美しい渓谷に沿う道を、
その眺めを見ようともしないままひたすら下っていく」などなど。
訳をされている鈴木啓二さんのセンスのよさが伝わってきます。

私は、こんなに大笑いしてしまう本だとは知らず、
夜中に読み始めてしまったことを後悔したくらいでした。

もし、そんな本をお求めの方にはおすすめです。

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