遺言
今日のおすすめは、品川正治・斎藤貴男『遺言~
「財界の良心」から反骨のジャーナリストへ』(青灯社)です。
経済同友会専務理事などを歴任し、
財界の中心で平和を求め続けた元日本火災会長の品川氏と、
ジャーナリストの斎藤氏の対談です。
品川氏は、東海村で第一号の原子炉が稼働を始め、
損害保険を日本火災で引き受けることになったとき、
「絶対安全」と言いながら保険をつける欺瞞を突き、
国策としてあくまで実行するなら国家が責任を持つべきだと反対を唱えます。
また、保険会社が金融に手を出すことにブレーキを踏み続け、
バブルで損害を受けることを防ぎました。
周囲がアクセルを踏み続ける中で、
目先でなく将来を見据えて判断した眼力をもって、
本書では政治・経済を主にさまざまな事象について語っています。
消費税増税と法人税減税がいかに愚かなことか、
TPPの本質は何か、財政危機は本当なのか、
日米安保は必要なのか、
アメリカとどのようにつきあえばよいのかなど、
本質をまったくつかめなかったことについて
多くを教えられました。
自分に近いところで言えば、政府の暴走を許し、
愚作に加担しているマスコミの罪については大変納得し、
考えさせられました。
本書で印象に残ったのが、
品川氏が中国での激戦地に兵隊として行き、瀕死の重傷を負って復員した体験を
80歳近くまで言えなかったという部分です。
戦争から戻った人が家族にも戦地でのことを話さないとは
よく聞くことですが、南方などは7割が餓死という中で、
戦友を見捨てて帰らなければならなかったことが
どんなにその人を苦しめ続けるか、
戦争の本当の残酷さを垣間見た気持ちがしました。
品川氏にはこの他、自伝のような『戦後歴程』(岩波書店)などもあり、
そこでは、復員船の中で憲法9条の草案を大尉に命じられて読み、
そこにいる全員が泣いたという記述があります。
それが品川氏の原点であり、昨年亡くなられるまで
反戦の心を持ち続け、発言し続けたそうです。
謦咳に接したかったと思いますが、
『遺言』の名のとおり、私たちがこれからすべきことを
斎藤氏とともに明確に示してくれています。
この本が今あることの幸運を思い、
一人でも多くの方に触れていただけたらと思います。