いのちと放射能
今日のおすすめは、柳澤桂子著『いのちと放射能』(ちくま文庫)です。
生命科学者の著者がチェルノブイリの原発事故をきっかけに、
放射能が人体に及ぼす影響について書いた文章です。
親から受け継いだDNAは未来永劫、子孫に伝えられます。
微量の放射線を浴びると、その遺伝子に変化(突然変異)が
起きます。
突然変異で損傷を受けた細胞は、次の子孫にそのままコピーされ、
ガンを引き起こすことになるそうです。
「人体に影響のない値」など放射線にないのだと、
これを読むとよくわかります。
損傷を受けたDNAが、人間だけでなく
あらゆる生物に蓄積していった未来を予想することはできないと
著者は書いています。
原子力発電で恐ろしいのは事故だけでなく、
ごみの問題があります。
永田文夫さんが書かれた解説のなかに、
六ヶ所村の核燃料再処理工場に保管されている核燃料について
記載があります。
再処理された高レベルガラス固化体は、
その側に立つと数秒で死亡するものであり、
40年冷却した後に地下に埋める計画ですが、
数万年、生命環境から隔離しなければならないそうです。
その候補地を国は必死で探し、数十億円の交付金を
つけて公募したと言います。
原発を稼働しなければごみに悩むこともありません。
しかし、今もまだ稼働する原発で
この恐ろしいごみはつくられつづけています。
自分たちの子孫に損傷したDNAを残し、
他の生物も地球も汚す原子力を、
著者は「人間が手を出してはならないもの」
と訴えています。
原発が起こしてきた事故はことごとく
電力会社と国によって隠されてきました。
この本は1988年に単行本が刊行されていますが、
ここにいたるまで手にとったこともなかった無関心な自分は、
政府や電力会社にとって好都合な
愚かな国民だったのだと知りました。
著者が、すべての原発を止め、
生活を電力を使わないものにするとともに
代替エネルギーの開発にその力を傾けるべきだと
強く主張するのは、
生命科学を研究した過程で、
遺伝子の損傷が与える影響を
自分の目で見てきたからだと思います。
その声に、できるだけ多くの人が
耳を傾けることを祈らずにいられません。