哲学者とオオカミ
今日のおすすめは、マーク・ローランズ著/今泉みね子訳
『哲学者とオオカミ』(白水社)です。
つい最近、取次会社の方に教えていただきました。
哲学者の著者がオオカミと暮らし、
看取りまでを通して考えたことが書かれています。
ブレニンと名付けたオオカミは、
生後6週間でやってきたその日からカーテンを引きずり下ろし、
エアコンを壊し、後に庭は穴だらけになります。
そのブレニンを、著者は
「何でも壊してしまうけれど、抱きしめたくなるほど可愛い、
大きな茶色のテディーベア」と表現します。
ホッブズが、自然は歯と爪が血に染まっていると考えたのに対し、
著者はこの生後6週間のブレニンを思い、
「自然は、わたしたちが文明と呼ぶもの以上に歯と爪を血に染めはしないし、
誰もが他のすべてを敵に回す戦争もない」と言います。
著者がブレニンから教えられたのは、
自分(人間)が「サルの魂」を持っていることでした。
「サル」は物の価値を自分の役に立つかどうかで計る、と著者は言います。
そして、次のように記すのです。
「オオカミはわたしたちに、人生でもっとも重要なものは、
決して計算ずくでできるものではないことを教えてくれる」
「ときには、たとえ天が落ちようとも、
正しいことをなすべきだということを思い出させてくれるのだ」
ブレニンの死で感じた大きな悲しみを通して、
著者は自分の魂のなんらか古代的な部分には、
まだ一頭のオオカミが生きていたと教えられます。
哲学者の書いた本で、多少難解な部分もありますが、
後半になるに従って、ブレニンとの愛が著者に与える変化に興味がわき、
一気に読み進めることができます。
動物と暮らした経験のある人には、きっと共感するところの多い1冊です。